漫画と違って、その作家さんの新作が出るまでにかかる時間が長いのが絵本です。
漫画は週刊や月刊で1話が世に出て、それがある程度たまった段階で再編集されて単行本になります。
その期間は、早くても3ヶ月くらいです。
漫画家は、一人で制作することがほとんどないので基本的にはアシスタントの方が力を貸して1話が出来上がります。
物語を考えるのは作家さんですが、その物語を作るのはたくさんの優秀な方たちです。
その為、短いスパンでも作品を出していくことができます。
対して絵本は基本的には一人で制作します。
編集も制作も全て一人です。分業というのを取り入れている作家さんはほぼいません。
絵と文が違う人が作っていたとしても分業と言えるほどのものではないのが事実です。
なので、必然的に一人にかかってくる作業量が多くなり、制作も時間がかかることになります。
とはいえ、それでも絵本は一人の作家さんの作品ができるまではよくて半年、長いと1年とかは軽くかかります。
なぜそこまで時間がかかるのか。
その辺の話をしていこうと思います。
- 大前提として一枚絵をページ分描く
- 全体の構成や流れが物語に沿っているのかを考えて配置しないといけない
- 物語に不要なものが複数含まれていないかを見る
- 絵の手法によって時間がかかる
- 絵本作家ゆうりが1冊作るまでにかける時間はどれくらいなのか
- 最後に
大前提として一枚絵をページ分描く
まず、大前提として絵本が漫画と大きく違うところは「一枚絵をページ分描く」ということです。
それもフルカラーで。
漫画の場合、コマ割りがあるので一枚絵を描くことはありません。コマの中に絵を描くので1枚にかかる負担は大きくありません。
描く絵の数や描くキャラクターの総数で言えば多くなりますが、1枚を細かく描きこむことはないので、絵本に比べると負担は少ない方だと思います。(それでも大前提として大変なのは承知の上です)
ですが、絵本は簡単に言ってしまうと絵画のような形の絵をページ分描く必要があります。
1枚に細かく描きこみが必要になってくるのと、文章で補えない物語の流れを絵で表現しないといけなくなるので、伝わってくれないといけません。
なので伝わるように工夫をしないといけないのです。
伝わらなかったり、伝わり方が違ってしまうよな絵は全部ボツになるのです。
すごく頭を使わないといけないんです。
慎重に絵を選んで描き進めないといけないので、1枚にかかる時間が大きくなるので制作に時間がどうしてもかかってしまうんです。
全体の構成や流れが物語に沿っているのかを考えて配置しないといけない
絵が描けて、物語ができれば完成とは言えないのが絵本の世界です。
その出来上がった物語がちゃんと伝わるのかを構成してみて客観的に見ないといけなくなってきます。
どこかで物語が伝わらなくなってしまっていないか、絵だけでも物語がちゃんと伝わるように構成されているのか、この順番で問題がないのかを慎重に見ていく必要があります。
もし伝わらないと判断したら、絵が仕上がっていてもボツにして一から考え直します。
その際前後の流れが悪いと判断したらそれも連鎖的に直さないといけなくなります。
そうやって最後まで流れを見ながら作っていかないといけないので、どうしても時間がかかるんです。
絵本の基本的なターゲットは子どもです。ですが、大人も最近は読みます。
大人が読む場合、普段本を読まない人であればそういう人でも掛け違えることなく物語が伝わるようにできているのかっていうところもちゃんと判断しないといけません。
この作業は何度も何度も検討します。
全ページを1枚に印刷して、それを見返し、おかしなところにはどんどんと赤を入れていく作業をします。
そして赤を自分で入れたところに関しては再度考え直してみる。そうやって納得ができるまで作り直していって初めて1冊ができます。
絵本って簡単じゃないんです。決して軽視していいものではないんです。
物語に不要なものが複数含まれていないかを見る
伝えたいことは明確なのに、その中で不要な要素が含まれてしまっているとどれが本当に言いたい事なのかがブレてしまいます。
例えば、仲間の大切さを伝えたいのに果物の細かい作り方とか農業の仕事のやり方とかを物語で描いてしまうのは蛇足ですよね。
そんなことはどうでもいいから仲間の大事さをもっとストレートに伝えろよってなりますよね。
絵本はページ数が少ないですし、物語もシンプルなものが多いです。
だからこそ物語にとって障害になるような2つ以上の要素を入れてはいけないんです。
伝えたいことはしっかりとあるなら、それがシンプルなわかりやすい形で物語になっているのかどうかをちゃんと判断しないといけなくなります。
構成の段階でそぎ落としていくことが大事なんです。
それを形にするまでにもやっぱり時間がかかります。
形としてバチッとこれで行こうってなるまでには、やっぱり時間がかかるんですよね。
どうしても1冊で物語を完結させないといけないので、そこは慎重にならざるを得ないんです。
一人で作っていると全部自分で気づいて直していかないといけないので、やっぱりある程度冷静になる時間や、客観視できるようになるまでの時間がかかるんです。
絵の手法によって時間がかかる
私みたいにデジタルで絵を制作している場合は、やり直しが何度でもできる上にその場で修正ができてしまうのでそこまで時間がかかるっていうことはありません。
が、中にはアナログで制作される方もいますし、版画で制作される方もいます。
そうなると、1枚にかかる時間は私の倍以上になります。
それは時間がかかりますよね。
当たり前ですが1枚に1ヶ月とか半月とかかかります。
そうなると1年に1冊しか出せないっていうのも納得ですよね。
絵本作家ゆうりが1冊作るまでにかける時間はどれくらいなのか
じゃあ私が1冊作るまでにどれくらいの時間をかけているのかというと、半年です。
物語の種を考えて、それを基に膨らませて大まかなプロットを書きます。
そのプロットをベースとして大まかな物語の流れを考えたら、今度それをページに分割していく作業に入ります。
この段階でオチまで一応考えてしまいます。ページ分割の段階で流れが悪かったり、ページをめくる手が落ちそうな場所があればそれが最小になるまで直します。
もちろんゼロにはできません。読んでくれる人がどこで本を閉じるのかをある程度はコントロールすることはできてもゼロにはできないからです。
なので、最小になるまで修正していきます。
それが完成したらその分割に沿って物語を文字化していきます。この段階で分割したシートと違ってしまうこともあります。
ですが、文章的に流れがスムーズにいくならそっちを優先させます。
おかしくなるようであればシートに沿って修正していきます。ここにも時間をかけていきます。
これが出来上がったら文字だけを当てはめた状態の見開きデータを作成します。この段階で絵のイメージもある程度イメージしておきます。
というか、物語を作っている段階から絵は想像しながら作っています。じゃないと絵と合わせた時にちぐはぐで不協和音になってしまうことがあるからです。
絵と文章がバラバラな絵本は、絵本とは言わないと絵本作家のプロから教わっていたので、ここはかなり意識しています。
これができたら絵のラフを描いていきます。まずは全体のラフを描いていきます。
1枚できたら完成させるといったことはしません。
前ページのラフが出来上がるまでは1枚も完成させることはありません。あとでもっといいラフの絵が出てくるかもしれないって思ったら、ここで完成させるのは労力が無駄になってしまう可能性があるからです。
なので、完成させたい気持ちをグッとこらえてラフをひたすらに描いていきます。
ラフが完成させたら、一度全ページを1枚に印刷して流れがおかしくないかや絵の中での構図に無理がないかを見ます。
無理があるならラフを新しく案を出していきます。これもわりと長い作業になります。
延々ラフができないページとかも全然あります。それでも他のページの絵はラフから進めることはしません。
もどかしい作業がずっと続きますね。
ラフが完成したら色ラフ作成になります。色ラフというのは、簡単に言えば「実際に色を置いた時のイメージを見るために作成する仮塗り」のことです。
これをしておかないですぐに塗り始めてしまうと、最後の方で色の整合性が取れなくなってしまい、色同士が喧嘩してしまうこともあります。
全部出来上がっていたり、ある程度出来上がった状態でこれに陥ると、他の部分も修正しないといけなくなります。
ですが、色ラフを作成しておくと、その段階で色がおかしかったら仕上げる前に修正ができるので手間が減ります。
なので、必ずこれはやっています。
色ラフが終わり、これで進められるとなってから仕上げの作業になります。
仕上げは、今までの工程がある分楽ですね。色も決まっていますので、それを基に陰影をつけていったり効果をプラスしたりするだけですから。
全部ページの絵が出来上がったら最終チェックをして、問題ないと思ったら初めて完成となります。
ここまでで約半年です。
最後に
約32ページの絵本を作るまでには、ここまでの時間がかかります。
簡単そうに見えても、絵自体にそこまで時間がかからなそうに見えても、そこには緻密な計算がされているのでどこまでも考え抜かれているんです。
そう考えると、絵本という媒体も子どもが読むだけではないと思えませんか?
絵本作家になってみて、ここまでの苦労があるんだということを改めて知ると、絵本1冊1冊への愛着がすごく沸きます。
絵本は漫画や小説とは違い、老いないコンテンツと言われたりします。
親が昔読んでいた絵本が巡り巡って今度は自分の子どもが読むことになる。そしてその子どもが大きくなって今度は自分の子どもに読み聞かせることになります。
そうやって絵本は循環していきます。
私の絵本も廃れないような工夫を凝らしながら丁寧に作っています。
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